故に世の中おもしろい(北海道の温泉で会った人)

北海道の温泉で会った人

 
2008年の夏だった。
北海道東部の中標津町。滞在先の温泉ホテルの浴場で早朝、全身泡だらけになりながら丁寧に体を洗っている男性に出会った。「どんを知りつつ脱衣場に出てくるのを待っていると、あの有名な漫談家だった。
 
「グラッチェ」「セニョール」「セニョリータ」……。
怪しげなラテン系の言葉を使いつつ、お色気ネタをまじえた医学漫談で笑いをとった漫談家のケーシー高峰さんである。全くのプライベートな時間だったので私は自分の名前と仕事を名乗っただけで後日、東京でお会いし、きちんとインタビューすることにした。
 
豪雪地帯で知られる山形県の最上町出身。母方が江戸時代から続く医者の家系だった。自身も日大医学部へ進んだが、芸能への憧れから1年も経たずに芸術学部に転部。やがて大学の先輩と漫才コンビを組んだ。

転機は1968年。脳外科医を描いた米国のドラマ「ベン・ケーシー」と、子どものころから憧れていた俳優・高峰秀子さんから芸名をとり、漫談家に転身。「親が見たら喜ぶんじゃないか」と思い、首から聴診器をぶら下げ、白衣姿で舞台に上がった。
 
2019年4月8日、肺気腫のため85歳で自宅のある福島県いわき市で亡くなった。訃報を聞いたとき、私の脳裏に浮かんだのは北海道の温泉場で一生懸命に体を洗っているケーシーさんの姿だった。「芸人は体が資本」ということを十分に知っていたのだろう。豪放磊落(ごうほうらいらく)に見えても神経のこまやかな人だったにちがいない。

朝日新聞編集委員 小泉 信一




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