故に世の中おもしろい(健さんからの手紙)

健さんからの手紙

 
木枯らしの季節になるとあの人の顔が浮かぶ。寡黙で一本気な「日本の男」。やくざ映画の「健さん」として一時代を築いた名優・高倉健さんである。

83歳で旅立ったのは2014年11月10日。日本中が悲しみに暮れる中、私は夜の酒場でひとり酒を飲みながら健さんからもらった手紙のことを思い出していた。

06年暮れ。当時、私が勤務していた北海道の稚内支局に写真集が送られてきたのである。差出人は「高倉健」。驚いて小包を開くと、手紙が入っていた。「あの土地を歩いた者でなければ書けない、厳しさと切なさ、ロケ当時を懐かしく思いました」。封筒には「夢」と印字されたシールが貼られていた。まさにクリスマスプレゼントだった。

実はこの数週間前、健さん主演の東宝映画「駅 STATION」(1981年)の取材を申し込んでいたが、スケジュールが合わず断られていた。あの映画の舞台となったのは稚内と同じ北海道の港町・増毛町。ともに冬は雪深く、荒れ狂う地吹雪に何日も閉じ込められることもある。だが、どうして健さんは手紙と写真集を送ってくれたのだろう。「厳しい北国で働いている貴兄に、敬意を表したんじゃないかな」。会社の先輩が言っていた。

不器用だが温かく、信念を曲げない男。写真集の序文に「一生懸命、命を燃やしていると、人と人との優しさ、幸せが味わえるかもしれない」とあった。

いまもつらいとき、健さんからの手紙を読む。俺もまだまだ頑張らんといけないと思う。

朝日新聞編集委員 小泉 信一



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